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最高裁判所第一小法廷 昭和24年(オ)189号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人松村(略)の上告理由第一点について。

原判決挙示の証拠によれば、本件売買代金の支払方法並びに家屋明渡及び移転登記の時期に関する原判決の認定を肯認することができる。されば、所論は、結局原審の裁量に属する証拠の取捨判断乃至事実の認定を非難するに帰し、適法な上告理由と認め難い。

同第二点、第三点について。

しかし原判決は、その理由の説示として、「挙示の証拠を総合すれば、大久保菊次は約定の明渡期限後屡々控訴人(上告人)に対し本件家屋の明渡を求めたけれども控訴人において或は猶予を求め、或は不得要領の答弁をして日時を遷延し遂にこれに応じなかつたこと、菊次においては控訴人が家屋の明渡をすれば何時にても約定に従い残代金の支払を為し得べき状態にあつたことが認められるばかりでなく、控訴人の手附倍戻による解除の意思表示は菊次からの履行の催告書到達後になされたものであることが推認されるのでかような場合には買主としては既に契約の履行に着手したものと解するのが相当である」旨説明している。そして、原判決の認定した右のごとき場合にはまだ現実に代金の提供をしなくとも買主としての契約の履行に着手したものと解することができる。そして、原判決は所論第二点で主張するように単に菊次からの履行の催告書だけで履行の着手があるとしたものでないから、論旨第二点の法律解釈適用を誤つたとの主張は原判示に副わない事実を前提とする主張であつて、採用できないし、また、右催告書が所論第三点で主張するように正当な権利者からの有効な請求とはいえないとしても、契約当事者であつた大久保菊次から上告人の解除権行使前に履行の催告のあつた事実を認むべき証左そのものは動かしい難い事実であるから、原判決が前述のごとくこれを買主において上告人の契約解除権行使前既に履行着手のあつた事実認定の資料の一部に加えたからといつて必ずしもこれを違法視することはできない。それ故所論第三点も採用することはできない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎)

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